外貨準備はただちに売却すべき

外貨準備で日本は沈没する

日本は現在1兆ドルを超える外貨準備を保有している。この多額のの外貨準備の蓄積は約110兆円の政府の借金によって賄われている。つまり日本政府は借金による投資で大変大きな為替リスクを背負い込んいるのだ。事実、現状ですでに30兆円を上回る隠れた損失を被っている。

 

外貨準備を管理する外国為替特別会計の財務書類によると、2010年3月末時点(1ドル=91円で換算)の為替評価損は26.3兆円だった。これまで2011年2月末時点(1ドル=82円で換算)には35.9兆円まで膨らんでしまった。9円の円高で実に10兆円近い国富が喪失したことになるのだ。今後さらに円高が進めば、その損失は40兆円、50兆円と膨らんでいく可能性がある。

 

日本円のイメージ

 

為替リスクがヘッジされていない

 

外貨準備とは、政府が為替レートに影響を与える目的で介入のために保有する外貨資産などである。円高を阻止しようとして、政府のドル買い介入が行われれば、外貨準備は増加するが、ドル購入に必要な円資金は、政府が外国為替資金証券(為券)を発行して市場から調達されるため、政府の債務が膨らむ。逆にドル売I介入が行われれば、外貨準備は減少し、為券は償還されて政府債務は減少する。

 

為券は政府短期証券と呼ばれる短期国債の一種であるにもかかわらず日本政府の介入はドル買いが圧倒的に多かったため、毎年借り換えられて長期債務化し、現在約112兆円まで積み上がっている。外貨準備は、民間からの円の借金で投資された政府保有の外貨資産だが、為替リスクがヘッジされていない。

 

為券の調達金利より米国債などの金利が高ければ運用益が生まれるが、円高になれば外貨資産の評価損が生まれる。これまで、日米の金利差は日本の方が低金利であったため、10年2月までの累計で約52兆円の運用純益が生まれている。この運用純益のうち約32兆円は一般会計に繰り入れられ、一般財源の一部としてすでに使われている。残り約21兆円は外為特会の積立金として計上され、財投に預託されている。

 

一方の為替評価損は前述したとおり11年2月末時点で35.9兆円に達する。筆者の推計によれば、このうちの約9兆円の損失は、03年初めから04年春にかけて行われた総額35兆円超の大規模なドル買い介入によるものである。介入がいかに大きなリスクを伴うものかがわかる。運用純益の累計は約52兆円で為替評価損を上回っており、全体としては利益を生んで回っている。

 

つまり、現在のレートで外貨資産をすべて売却し、積立金をすべて取ぴ崩しても、政府の借金は返済できない。外為特会は事実上、15兆円の債務超過に陥っているのである。

 

歴史が証明する介入はほとんど効果なし

そもそも為替介入は外貨準備保有で儲けを出すことが目的ではなく、為替レートの安定化に主眼がある。

 

もしドル買い介入が円高阻止に一定の効果があるのであれば、経済安定化につながりうるので、介入で増加する外貨準備保有で、ある程度損失を被っても、国にとって利益があると言えるだろう。1970〜80年代には、日本以外の先進国もしばしば為替介入を行っていた。この時期の為替介入の効果については、大変多くの実証分析がなされている。それらを踏まえて、米経済学者のオブズフェルドーカリフォルニア大学教授とクルー・グマ介入が財政金融政策の変更を伴うことなく、為替レートに主要な影響を及ぼすということを示す実証的な証拠はほとんどない」と結論づけている。また、日本では、介入実績の詳しいデータが利用可能となった90年代初め以降の時期について実証分析が行われている。それによると、介入がその日の為替レートに与える影響は非常に小さい。

 

85年のプラザ合意以降の急激な円高進行とドル買い介入の経験も、示唆に富んでいる。当時のドル高修正を図るため、G7諸国は共同介入した。この時の介入は、@各国共同で規模が大きかった、A介入は金融政策の変更を伴うと市場が期待したI−ことから、各国通貨に対してドル安が始まった。しかし、いったん始まったドル安・円高は、日本政府の思惑を超えてさらに突き進んだ。これに対し日本政府は懸命なドル買い介入を行ったが、急速な円高の進行を止めることはできなかった。

 

当時、大蔵省財務官として為替介入政策の量堕貝任者だった行天豊雄氏は、数年前のメディアで次のように当時を回想している。

 

中曽根総理(当時)から企業の3月決算を乗り切るために170円台を死守してほしいと直接指示された。しかし、プラザ合意後の急激な円高は市場の力を嫌というほど思い知らされた。「市場をコントロールしようとしてもできっこない」。現在日本が保有する外貨準備は他の先進国と比べると、絶対水準(金額)が大きいだけではなく、その国のGDPや為替市場の規模との比較でもケタ違いに大きい(図)。

 

たとえばユーロ圏17カ国の外貨準備は3000億ドルで対GDP比で2.5%に過ぎない。これに対し日本は実に19.4%にも達している。1日の為替取引額の比較でも、英国は0.04倍に過ぎないが、日本は3.4倍に達している。為替市場の規模との対比で日本は英国の約90倍もの外貨準備を持っているのだ。

 

外貨準備は巨額になればなるほど為替リスクは大きくなる。また、日本以外の先進国では、日本に比べ極めて低い水準の外貨準備しか持っていないにもかかわらず、特段の問題なく経済運営がなされている。この2点を考慮すれば、日本がとるべき政策は、他の先進国を基準にして、異例に高い外貨準備を大幅に引き下げていくことだと言える。

 

では、具体的にどの程度まで減らすべきか。他の先進国の状況を踏まえ、外貨準備の約8割を数年かけて市場で売却し、現在の5分の1程度の水準を提案する。その場合でも、他の先進国よりも多く保有することになる。介入効果の実証分析を踏まえれば、売却による為替レートへの影響を心配する必要はない。

 

米国国債の大量売却は、米国国債価格の下落を招ぐと懸念されるかもしれない。しかし、米国の国債市場では年間約180兆Jもの取引が行われており、数年かけて売却する限り、米国国債市場への影響はない。実際、03〜04年春の35兆円超ものドル買い介入が、米国国債市場に影響を及ぼした形跡はまったくない。

 

筆者が経済論壇で外貨準備8割売却を初めて提案したのは07年だった。当時の為替レートは1ドル=120円前後で、外貨準備売却を始める好機であった。しかし、現状の為替水準でも、外貨準備売却を始める必要性は変わらない。今後のレートがどのように推移するかはわからない。過去の負の遺産から生じるリスクのさらなる拡大を防ぐことは、いつ始めても遅すぎることはない。

 

日銀介入と為替相場の推移
日銀介入と為替レートの関係
作成者:FXの比較の王道

 

 

外国為替市場(FX)は、NY時間後半に各通貨が急速にリバウンドした動きの反動で早朝にはユーロ円などが反落して取引を開始しているものの、米株の切り替えしがアジア株式市場に波及すると、再びリスク回避の巻き戻しの動きが活発化すると考えられる。昨晩の大きな混乱の要因となったベルギー金融機関のデクシアに対する支援が迅速に発表されており、更には英FT紙で欧州金融機関への資本注入がEUによってなされているとの観測報道もあり、金融市場混乱への懸念が薄らぎ始めていると考えられるからだ。